交通事故の損害賠償請求は、原則として、損害及び加害者を知った時から3年を経過するまでに行う必要があります。もっとも、生命又は身体に関する損害については、損害及び加害者を知った時から5年となります。
「損害及び加害者を知った時」とは、交通事故の日となることが多いです。また、後遺障害に関する損害については、症状固定日が基準となります。
仮に、上記期間が経過したにもかかわらず損害賠償請求権を行使しないでいると、消滅時効が完成し、加害者がこれを援用した場合、損害賠償請求権は消滅してしまいます。
もっとも、次のような時効更新事由(時効がリセットされる事情)がある場合には、交通事故発生から3年(又は5年)を過ぎても、消滅時効は完成しません。
交通事故でよくある時効中断事由
・加害者側の承認
加害者が被害者の損害賠償請求権を承認すると、時効はリセットされます。
交通事故の多くのケースでは、加害者側の保険会社が、示談成立に先立ち、被害者のケガの治療費を医療機関に支払います(一括払いと呼ばれます)。治療費は損害賠償金の一部金であり、加害者が損害賠償金を支払うことは、被害者の損害賠償請求権を承認するものとして、時効更新事由である「承認」に該当するものと解されます。
また、加害者側の保険会社は、示談交渉の際、被害者に対して、示談提案・示談金額の提示を行います。このような提示、提案も、被害者の損害賠償請求権を認めた上で行うものであり、時効更新事由である「承認」に該当するものと解されます。
・被害者による請求
被害者が加害者に対して損害賠償請求訴訟を提起すること等は時効の完成猶予事由とされ、この事由が終了するまで時効が完成しません。そして、判決等によって権利が確定したときは、時効が更新されます。
また、裁判外で請求した場合(例えば、電話や手紙、メールなどで加害者側に損害賠償請求した場合)、この請求のことを「催告」といいます。催告は、時効の完成猶予事由とされ、催告の時から6か月を経過するまでの間は時効が完成しません。
催告により時効の完成が猶予されている間に再び催告をしても、時効の完成猶予の効力はありません。
〔参考条文〕
○民法724条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
2 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
○民法724条の2
人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
○民法147条
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
1 裁判上の請求
2 支払督促
3 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停
4 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加
2項 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
○民法150条
催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。
○民法152条
時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。