目次
むち打ちとは?
- 交通事故のケガに多い
- 追突の衝撃などによる首(頸部)の過伸展・過屈曲が原因
- 診断書では「頸椎捻挫」「頸部挫傷」「外傷性頸部症候群」など
むち打ちとは、交通事故の衝撃などのために、首(頸部)が鞭(むち)のようにしなることによって、首から肩・腕・手指などに起こる痛みやしびれなどの症状の一般的な総称をいいます。
診断書に、「むち打ち」という診断名・傷病名が記載されることはありません。
診断書上は、「頸椎捻挫(けいついねんざ)」、「頸部挫傷(けいぶざしょう)」、「外傷性頸部症候群(がいしょうせいけいぶしょうこうぐん)」などと記載されていることが多いです。
むち打ちの症状
- 首や肩が痛い、凝る、張る
- 手指がしびれる
- 首・肩・腕から手指にかけて、重い、だるい
上記は、むち打ちに表れる代表的な神経症状です。このほか、頭痛や耳鳴り、めまい、腰痛など様々な症状に襲われることもあります。
むち打ちと後遺障害
後遺障害14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
---|---|
後遺障害12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
むち打ちは、非該当か、14級9号又は12級13号のいずれかの等級で後遺障害として認定されることがほとんどです。
- 14級9号と12級13号の違い
両者の違いは、上記のとおり、「頑固な」神経症状が残っているかどうかです。
実務的な運用としては、「頑固な」神経症状がある(12級13号)といえるかは、その神経症状について他覚所見があるかどうかで判断されています。他覚所見とは、他者、つまり、客観的な所見からその神経症状が証明できることをいいます。
具体的には、むち打ちの場合、主にMRIの画像によって、神経症状が証明できる場合に、12級13号が認定されやすいということになります。後遺障害14級9号と12級13号では、12級13号の方が後遺障害の等級が高く、後遺障害慰謝料や逸失利益も高額になります。
具体的に、後遺障害慰謝料では、自賠責基準おいても
・14級9号:32万円(弁護士基準では90~120万円)
・12級13号:93万円(弁護士基準では250~300万円)
といった違いが出ます。
むち打ちと後遺障害
交通事故の状況 | 交通事故の際に受けた衝撃がどの程度のものであったのか |
---|---|
治療の経緯 | どのような治療を、どれくらいの頻度で受けてきたか |
症状の継続性・一貫性・常時性と診断書 | 交通事故後早期から、一貫して、常時、継続的に症状があったと、診断書に記載されているか |
MRIなどの画像診断 | 交通事故後早期に、MRI(CT)画像を撮ったか。 ※画像所見があると12級13号が認定されやすくなります |
神経学的診断 | 腱反射テスト、スパーリングテスト、ジャクソンテストなどを受けたか。 ※神経学所見があると12級13号が認定されやすくなります |
その他 | 治療費打ち切り後の自費通院の有無など |
▼ POINT01. 交通事故の状況
むち打ちが後遺障害として認められるには、交通事故によって、むち打ちを生じさせる、後遺障害を生じさせる程の強い衝撃があったと認められることが必要です。
これらは、追突・衝突時の走行速度、車両同士の事故の場合はどの程度車両が破壊されたのかなどから、判断されます。低速度での衝突、追突された車両にほとんど凹みや傷がつかなかった場合など、後遺障害を生じさせる程度の強い衝撃はなかったとして、後遺障害に該当しないと判断されやすくなります。
▼ POINT02. 治療の経緯
むち打ちが後遺障害として認められるには、交通事故直後から症状固定まで、高い頻度で整形外科などに通院し、継続的に治療を受けたという経緯が必要です。
通院・治療を受けていない、または、通院・治療の頻度が低いと、首や肩の痛み、手指のしびれなどのむち打ちの症状が出ていない、または、そのような症状があったとしても通院・治療を受ける程のものではないと判断され、後遺障害として認められにくくなります。
また、通院は、当然、むち打ちの症状を治療するためのものでなくてはなりません。整形外科などの医療機関で、むち打ちの治療を受けたことが必要です。
目安として、週に2回以上の通院頻度があると、後遺障害として認められやすいでしょう。
なお、接骨院や整体院などへの通院は、後遺障害の認定上は、重視されません。接骨院や整体院で行われる施術は、「医療類似行為」であって、「治療」を受けたと認められないからです。
仕事や家事・育児でなかなか整形外科に通えない、待ち時間が長い、診療時間が短い、医師から処方される湿布よりも施術を受けた方が痛みが取れる、保険会社も接骨院や整体院などで受ける施術料を治療費として支払ってくれている・保険がきく、医師よりも親切・話をじっくり聞いてくれるなど、接骨院や整体院へ通院したいという要望が多いことは、とても理解できます。
ですが、後遺障害の審査にあたって、このような主張は全く考慮してもらえません。後遺障害の認定を受ける上では、整形外科などの医療機関に通院し、治療を受けることが必要です。
▼ POINT03. 症状の継続性・一貫性・常時性と診断書
むち打ちが後遺障害として認められるためには、交通事故後早期にむち打ちの症状を訴えていて、かつ、それが治療終了(症状固定)時点まで継続していること、そして、それが医師作成の診断書・カルテに記載されていることが必要です。
外傷によるむち打ちの症状は、一般的に、交通事故後早期に強く発症し、時間の経過とともに損傷部位が回復して、徐々に症状が軽減していくと考えられています。
そのため、交通事故から数ヶ月経過して発症した場合や、症状が一貫していない・一時的である・継続していない場合などは、交通事故の後遺障害とは認められにくくなります。
そして、むち打ちの後遺障害の審査は、書類審査で行われることから、むち打ちの症状が、交通事故後早期から、継続的に、一貫して主張されていたことは、診断書・カルテに記載される必要があります。
ポイント2「治療の経緯」とも重複しますが、ここでの診断書・カルテは、医師が作成したものでなければならず、整骨院や整体院の先生が作成したものは、後遺障害の認定上は、重視されません。
後遺障害認定の流れ・審査方法について、詳しくはこちら
▼ POINT04. MRIなどの画像診断
むち打ちが後遺障害として認められるには、交通事故後早期に、MRIなどの画像を撮っていることが必要です。
医師が患者からむち打ちの症状を訴えられた場合、その原因究明・治療のために、MRI等の画像による診断を行うのが一般的です。そのため、交通事故後早期にMRIなどの画像診断を受けていないと、交通事故後早期に、医師に対し、原因を究明し、治療を望むほどのむち打ちの症状の訴えがなかったものと判断され、後遺障害の認定が得られにくくなります。
後遺障害の認定にあたって、MRIなどの画像所見が必要であるという意味ではありません。
上述のとおり、後遺障害12級13号の認定を得るためには、MRI画像などの他覚所見が必要ですが、14級9号では他覚所見は必ずしも必要とされません。
なお、画像診断としては、MRIよりも、レントゲンの方が聞き慣れている方が多いかもしれません。
ですが、レントゲンは、主に骨を診るためのものですので、レントゲン写真を撮ったからといって、むち打ちの後遺障害を認定する上で、十分とは言えません。むち打ちの診断にあたっては、一般的に、頸椎という骨の間にある椎間板や神経根を診る必要があり、それらは、レントゲンでは診ることができないからです。
▼ POINT05. 神経学的診断
むち打ちが後遺障害として認められるには、神経学的な診断を受けていることが必要です。
神経学的な診断を受けていることが後遺障害の認定にあたって必要である理由、また、神経学的な所見が必要であるという意味ではないことは、ポイント4「MRIなどの画像診断」と同様です。
医師が、むち打ち(神経根障害)を疑った場合、一般的に、腱反射テスト、スパーリングテスト、ジャクソンテストなどの神経学的検査を行います。
このようなテストが行われていない場合、むち打ち(神経根障害)の疑いがなかったものと判断され、後遺障害の認定が得られにくくなります。
・腱反射テスト:ゴムハンマーなどの打鍵器を用いて、体の特定部位をたたいて各神経を直接刺激し、異常な反射がないか診るテストです。
・スパーリングテスト:患者を座らせ、頭を後ろに反らせた上で、右や左に傾け、圧迫するなどして、その神経根の支配領域に痛みやしびれがあるかを確認するテストです。
・ジャクソンテスト:患者を座らせ、頭を後ろに反らせた上で、さらに後ろに曲げようと圧迫し、その神経根の支配領域に痛みやしびれがあるかを確認するテストです。
▼ POINT06. その他
以上のほかにも、むち打ちが後遺障害の認定にあたって、以下のような事情が考慮されることがあります。
・保険会社による治療費の打ち切り後、治療終了・症状固定後も、自費で、通院治療を継続している →後遺障害が認定されやすくなります
・接骨院・整体院等への通院 →医療機関での通院・治療のように重視されませんが、その他の事情として後遺障害が認定されやすくなります