交通事故によってせき柱(背骨)に損傷を受けたり、肋骨などの体幹骨にダメージを受けたりすると、運動障害や骨の変形障害が発生して、後遺障害が残ってしまうことがあります。
このような身体の基礎となる骨に後遺障害が発生すると、身体を動かしにくくなって、日常生活や仕事にも大きな支障が発生する可能性があります。
ただ、「せき柱」や「体幹骨」と言われても、どういった内容の後遺障害があるのか、ピンと来ない方が多いかもしれません。
そこで今回は、せき柱やその他の体幹骨に認められる後遺障害について、解説します。
目次
1.せき柱及びその他体幹骨の後遺障害とは?
せき柱とは、いわゆる背骨のことです。交通事故で背骨にダメージを受けると、背骨が変形したり、動きにくくなったり、身体を支えにくくなったりすることがあります。そういったケースにおいて、後遺障害が認められます。
せき柱の後遺障害の種類は、以下の通りです。
- 変形障害
- 運動障害
- 荷重機能障害
体幹骨とは、体幹部分にあって、身体の基礎となる骨のことです。具体的には、鎖骨と胸骨、肋骨、肩こう骨、骨盤骨が該当します。
せき柱以外の体幹骨については、変形障害のみが後遺障害として認められます。
以下で、それぞれについて詳しく確認していきましょう。
2.せき柱の障害
2-1.変形障害
変形障害は、せき柱が損傷をして変形してしまった場合に認められます。椎骨を圧迫骨折した場合や破裂骨折、脱臼などが起こった場合に発生しやすいです。
せき柱の変形障害が発生した場合、せき柱が後彎または側彎した程度などによって等級が決まります。
せき柱の後彎の程度については、せき柱の前方の椎体の高さが減少した場合に、減少した前方の椎体の高さと後方の椎体の高さを比較して、判定します。
せき柱の側彎については、「コブ法」という検査方法によって、側彎度という角度により、判断します。
せき柱の変形障害で認定される後遺障害の等級は、以下の通りです。
6級5号 |
せき柱に著しい変形を残すもの |
8級 |
せき柱に中程度の変形を残すもの |
11級7号 |
せき柱に変形を残すもの |
「脊柱に著しい変形を残すもの」は、画像上明白に圧迫骨折や破裂骨折、脱臼などの原因を確認できる場合で、かつ以下の要件のいずれかを満たす場合に認定されます。
- 骨折等の原因により、2つ以上の椎体において、前方の高さの合計が、後方の高さの合計より、1つ分の椎体分以上低くなった場合
- 骨折等の原因により、1つ以上の椎体において、前方の高さの合計が、後方の高さの合計より、1個の椎体の半分以上低くなっており、側彎度が50度以上となった場合
「脊柱に中程度の変形を残すもの」は、画像上明白に圧迫骨折や破裂骨折、脱臼などの原因を確認できる場合で、かつ以下の要件のいずれかを満たす場合に認定されます。
- 骨折等の原因により、1つ以上の椎体において、前方の高さが、後方の高さと比べて2分の1以上低くなった場合、
- 側彎度が50度以上になった場合
- 環椎(第一頚椎)または軸椎(第二頚椎)の変形・固定によって次のいずれかに該当するケース
60度以上の回旋位となった
50度以上の屈曲位となった
60度以上の伸展位になった
側屈位になってしまい、矯正位(頭をまっすぐに立てた状態)にすると、頭蓋底部と軸椎下面の平行線が交わる角度が30度以上になった
「脊柱に変形を残すもの」は、以下のいずれかに該当するケースです。
- 画像で圧迫骨折や破裂骨折や脱臼などの原因を確認できる
- 脊椎固定術が実施された(移植された骨が脊椎に吸収された場合を除く)
- 3つ以上の脊椎で、椎弓形成術などを受けた
2-2.運動障害
せき柱の運動障害は、頸椎や腰椎などが固まってしまった場合や可動域が小さくなってしまった場合などに認められる後遺障害です。
せき柱の運動障害の内容と認定される等級は、以下の通りです。
6級5号 |
せき柱に著しい運動障害を残すもの |
8級2号 |
せき柱に運動障害を残すもの |
「せき柱に著しい運動障害を残すもの」とは、頚椎と胸腰椎の双方が、次のいずれかの原因によって強直してしまった場合に認められます。
- 頚椎と胸腰椎のそれぞれにおいて、圧迫骨折などが発生している(画像上で確認できる場合)
- 頚椎と胸腰椎のそれぞれに対して脊椎固定術が実施された
- 首や背中、腰の軟部組織(筋肉や靭帯など)において、明らかな器質的変化がある
「せき柱に著しい運動障害を残すもの」とは、頚椎または胸腰椎のどちらかの可動域が、次のどれかの原因によって通常の可動域の2分の1以下になってしまった場合に認定されます。
- 頚椎または胸腰椎において、圧迫骨折等が発生していること(画像上確認できる場合)
- 頚椎または胸腰椎に対して脊椎固定術が実施された
- 首や背中、腰の軟部組織に明らかな器質的変化がある
また、頭蓋や上位頚椎が、著しく異常な動きをするようになった場合にも、「せき柱に著しい運動障害を残すもの」とされます。
2-3.画像診断で確認できない場合
せき柱の運動障害が認められるためには、X線などによる画像診断で症状を確認できる必要があります。画像上、せき椎の圧迫骨折やせき椎固定術が確認できず、項背腰部軟部組織における器質的変化も見られない場合で、単に痛みによって運動障害が残っている場合には、局部の神経症状として、後遺障害が認定されます。
2-4.荷重障害
せき柱の荷重障害は、せき柱が損傷を受けることにより、身体を支えられなくなった場合に認定されます。圧迫骨折や脊椎の固定手術、軟部組織の器質的変化が、主な原因です。
また、荷重障害は、頚椎と胸腰椎の別々に後遺障害を認定します。頚椎は、主に頭部を支えるものであるのに対し、胸腰椎は頭だけではなく上半身も支えるので、それぞれ別の働きをすると考えられるためです。
荷重障害で認められる後遺障害の内容と等級は、以下の通りです。
6級相当 |
せき柱に著しい荷重障害を残すもの |
8級相当 |
せき柱に荷重障害を残すもの |
「せき柱に著しい荷重障害を残すもの」とは、頸部と腰部の両方の保持が困難になり、常時硬性補装具が必要になった場合で、かつ次のいずれか1つ以上にも該当する場合です。
- 頚椎と腰椎のそれぞれに圧迫骨折等が発生していることを、画像上確認できる
- 脊柱を支える筋肉が麻痺していることを、画像などによって確認できる
- 首や背中、腰の軟部組織に明らかな器質的変化が発生していることを、画像等によって確認できる
頸部または腰部のどちらか一方に、上記の障害が発生して常に硬性補装具が必要になった場合には、「せき柱に荷重障害を残すもの」として8級が認定されます。
2-5.せき柱の後遺障害の注意点
せき柱の後遺障害が発生したときには、以下のような点に注意が必要です。
脊髄損傷が起こることも多い
せき柱の後遺障害が残ったときには、同時に脊髄損傷が発生することも多いので、後遺障害の見落としが起こらないように注意が必要です。
骨折が認められにくいことがある
せき柱の後遺障害の認定を受けるためには、圧迫骨折や破裂骨折などの原因を、明確に画像上で認めることが必要です。しかし、画像が不明確なために、骨折自体が争われることが多いです。
また、骨折を確認できるとしても、それが事故前からあったものではないか、と主張されることもよくあります。
せき柱に損傷を受けて治療を行うときには、こういった画像診断で起こりやすい問題も意識しながら進めるべきです。
逸失利益が否定されることがある
せき柱の後遺障害の中でも、変形障害のケースでは、労働能力の低下が起こらないとして、逸失利益を否定されやすいです。
ただ、現状で特に支障が発生していなくても、体幹を支えるせき柱が変形してしまったことにより、今後新たに痛みが発生したり変形が酷くなったりする可能性もあるといて、労働能力低下を認めた裁判例などもあります(名古屋地裁平成28年3月18日)。
また、逸失利益が否定されても、その分慰謝料が増額される可能性もあるので、相手の保険会社が労働能力の喪失を否定してきても、鵜呑みにしないことが大切です。
3.その他体幹骨の障害
3-1.その他体幹骨の障害の内容と等級
その他体幹骨の障害としては、変形障害が認められています。
12級5号 |
鎖骨、胸骨、肋骨、肩こう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
「鎖骨、胸骨、肋骨、肩こう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」とは、裸になって直接その部位を見たときに、変形していることが明らかにわかる場合です。
外目にはわからないけれども、レントゲンなどによってようやくわかる、という場合には後遺障害は認められません。
肋骨については、本数や程度、部位に関係なく、全体を1つの障害として取り扱います。ろく軟骨の変形も、肋骨と同様に扱います。
骨盤骨には、仙骨は含まれますが、尾骨は除かれます。
3-2.体幹骨の変形障害と逸失利益
体幹骨の中でも、鎖骨や骨盤骨の変形障害の場合、労働能力に対する影響が小さいので、後遺障害の逸失利益が否定されやすいです。
ただ、鎖骨の変形があると、外見が変わるので、たとえばモデルなどの人前に出る仕事の場合には、仕事に影響が及びます。
また、逸失利益が減額されることがあっても、必ずしも全く認めない(0になる)というわけではありません。
さらに、逸失利益が否定されても、その分慰謝料が増額されることもあります。
逸失利益について、正しく検討するには弁護士による専門的なサポートが必要です。
せき柱は、人間の基礎となる重要な骨ですから、後遺障害が残ると、後の人生への影響は大きいです。まずは適切に治療を受けて、残った症状については、確実に高い等級の後遺障害認定を受けましょう。