交通事故で顔面にケガをすると、鼻にダメージを受けてしまうケースがあります。鼻の後遺障害には、いくつかの種類があります。どのような場合にどういった後遺障害が認定されるのか、押さえておきましょう。
以下では、交通事故の鼻の後遺障害について解説します。
目次
1.鼻の後遺障害の内容
鼻の後遺障害には、大きく分けて以下の3種類があります。
- 鼻の欠損障害
- 鼻呼吸の障害
- 嗅覚の障害
以下で、それぞれについて確認していきましょう。
2.鼻の欠損障害
鼻の欠損障害とは、鼻が物理的に一部または全部失われるケースです。
鼻の後遺障害で、後遺障害等級表によって認められるものは、鼻の欠損障害のみです。
鼻を欠損すると、以下の後遺障害等級に該当します。
9級5号 |
鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの |
9級5号が認定されるためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 鼻を欠損した
- 鼻の機能に著しい障害を残している
それぞれについて、どういった状況なのか、説明します。
2-1.鼻の欠損とは
鼻は、外鼻と鼻腔の2つの部分に分けられます。
外鼻とは、顔の中央にある三角錐の形に盛り上がっている部分のことで、上半分は「鼻骨」、下半分は「軟骨」という骨によって形作られています。
鼻腔は鼻の穴のことですが、その上部には嗅上皮という粘膜の層があります。そこに、臭いを感じ取る嗅細胞があり、嗅覚機能を働かせています。
この中で、外鼻の軟骨の全部や大部分を欠損した場合に「鼻の欠損」となります。 鼻の欠損が生じたかどうかについては、CTやレントゲンなどの画像により、明らかに認められることが必要です。
また、鼻は、欠損しても手術によって再形成することができるケースがあります。後遺障害として認められるためには、形成手術によっても再形成が不可能である必要があり、手術等によって再建に成功した場合には、鼻の欠損の後遺障害は認定されません。
2-2.鼻の機能に著しい障害を残すものとは
鼻の機能に著しい障害を残すものというのは、鼻呼吸が困難になったケースか、嗅覚が失われたケースです。
嗅覚が失われたかどうかについては、T&Tオルファクトメーターという機器を使い、基準嗅力検査を行うことによって判断します。検査によって得られた平均嗅力損失値(嗅力が失われた程度を表す数値)が5.6以上の場合に嗅覚脱失、2.6以上5.5以下の場合に嗅覚減退と評価されます。
また、嗅覚脱失したかどうかについては、アリナミン静脈注射(アリナミンPを使ったテストです。アリナミンFではありません)による検査でも調べることができます。
2-3.外貌醜状との関係
鼻の欠損に至らない場合
交通事故の外傷で鼻にダメージを受けたとき、鼻の軟骨の全部や大部分まではなくならなくても、一部のみが失われることがあります。この場合、「鼻の欠損」とは言えないので、鼻の欠損障害(9級5号)の後遺障害の認定は受けられません。
ただし、この場合、「外貌醜状」の後遺障害が認定される可能性があります。
外貌醜状とは、外貌醜状とは、頭部や顔、首などの日頃から露出している部分のうちで、腕や脚をのぞいた部分に醜状が残った場合です。
交通事故によって外貌醜状が残ると、程度に応じて後遺障害が認定されます。
鼻の一部がなくなると、外貌に変化が発生するので、12級14号の後遺障害が認定される可能性があります。
鼻の欠損が認められる場合
また、鼻に大きな損傷を受けて、鼻の欠損が認められて9級5号が認定される場合でも、同時に外貌醜状が認められるケースがあります。「著しい外貌醜状」と認められると、7級12号が認定されます。鼻の欠損によって、9級5号と7級12号の両方に該当する場合、高い方の等級である7級12号が認定されます。併合認定されることはありません。
3.鼻呼吸の障害
交通事故で鼻に障害を負ったとき、鼻の軟骨が失われなくても、鼻による呼吸に障害が発生するケースがあります。
鼻呼吸のみが困難になった後遺障害については、後遺障害の等級表に記載はありませんが、12級の認定を受けることになります。
4.嗅覚の障害
4-1.嗅覚障害で認定される後遺障害
鼻の欠損をともなわず、嗅覚のみが失われたり減退したりするケースがあります。このような嗅覚障害のみの場合についても、後遺障害の等級表に記載はありませんが、以下のとおりの後遺障害が認定されます。
- 嗅覚脱失(失われた)…12級
- 嗅覚の減退…14級
嗅覚脱失とされるのは、T&Tオルファクトメーターという検査機器により、基準嗅覚検査という検査を行った結果の平均嗅力損失値が5.6以上となった場合です。
嗅覚減退とされるのは、上記の検査において、平均嗅覚損失値が2.6以上5.5以下になっている場合です。
4-2.逸失利益との関係
嗅覚脱失や嗅覚減退の後遺障害が残った場合には、後遺障害の逸失利益が否定されることがあります。
逸失利益とは、後遺障害が残って労働能力が低下したことにより、本来得られるはずだったのに失われてしまった収入のことです。
逸失利益が認められるためには、労働能力が低下することが必要です。しかし、嗅覚障害が残っても、一般的に労働能力に影響が及ばないと考えられるため、後遺障害を否定されるのです。
しかし、職業等の個別の事情によっては、逸失利益が認められる可能性があります。逸失利益が認められるかどうかについては、被害者の年齢や職業、性別や実際に発生した減収の程度などを総合的に評価して判断します。中でも、被害者の職業への影響は、特に重要視されます。嗅覚障害で逸失利益を認められやすい職業は、調理師や主婦です。
調理師
調理師にとって、材料の選定、料理をしている際の味見などは非常に重要な作業です。嗅覚が働かないと、効果的にこういった作業をすることができず、仕事に直接的な影響が及びます。そこで、調理師や料理人の場合、嗅覚の脱失や減退が発生すると、後遺障害逸失利益を認めてもらいやすいです。本来の基準を超える逸失利益が認められる可能性もあります。
主婦
主婦にとって、料理は非常に重要な仕事ですが、嗅覚がなくなったり減退したりすると、適切に味付けなどを行うことができなくなります。また、嗅覚が失われると、異臭や煙などに気づきにくくなるため、家の適切な管理にも影響が及びます。そこで、主婦に嗅覚障害の後遺障害が残ると、逸失利益を認めてもらいやすいです。
また、嗅覚障害で労働能力喪失が明確に認定されず、逸失利益が否定されるケースであっても、慰謝料の補完作用により、通常のケースよりも慰謝料が加算される可能性があります。
以上のように、鼻に後遺障害が残るケースにも、いろいろなパターンがあります。鼻に欠損が残った場合には外貌醜状との兼ね合いの問題がありますし、鼻の欠損を伴わない場合、逸失利益との関係で問題が発生する可能性があります。