高次脳機能障害とは?
- 交通事故で脳に外傷を受けたために起こる
- 脳が持つ様々な機能(記憶・言語・行動など)に関する後遺障害
交通事故によって、頭部・脳に外傷を受けることがあります。
人間の脳は、記憶力・注意力、言語能力・視覚や聴覚などの感覚、空間認知能力、意思の統制や行動の抑制、運動能力など、様々な機能を有しています。このような人間に備わっている高いレベルの脳の機能に障害が生じることを、高次脳機能障害(こうじのうきのうしょうがい)といいます。
ただし、医師の診断として、交通事故の直後に、高次脳機能障害という診断名・傷病名が記載されることはありません。
交通事故直後の診断書上は、「脳挫傷(のうざしょう)」、「びまん性軸索損傷(びまんせいじくさくそんしょう)」、「外傷性くも膜下出血」「急性硬膜下血腫」「外傷性脳室出血」などと記載されることが多いです。
高次脳機能障害の症状
- 記憶障害
- 遂行機能障害
- 人格変化などその他
- 注意障害
- 社会的行動障害
高次脳機能障害は、脳が有する様々な機能の障害であるため、その症状も様々な形で表れます。上記は代表例であり、その具体的な症状・行動は以下のとおりです。
記憶障害
・交通事故以降の新しいことが覚えられない、すぐに忘れてしまう
※今日の日付など簡単なことから、物の置き場所、1日の予定、複雑な出来事など、程度があります(以下、同様)。
・交通事故以前の出来事が思い出せない、記憶が喪失している
注意障害
・気が散る、注意力が散漫、集中できない
・注意や集中力が続かない
・半測空間無視(脳損傷の反対側の空間にあるものを見落とす)
遂行機能障害
・論理的に考えられない、いきあたりばったりで計画的に行動できない
・指示がないと何もできない、物事の優先順位を付けられない
・目的にあった行動ができない、効率よく行動できない
社会的行動障害
・周囲の環境や状況にあわせた行動や感情のコントロールができない
・すぐ怒る、怒り出すととまらない、欲求が抑えられない
・意欲がない、自発的な行動が低下する、人に依存・頼ることが増える
人格変化などその他の症状
・交通事故以前と以後で、人格が変わった
・自身の症状・変化を認識できていない、人のせいにする、必要な治療等を拒否する
・日常の動作、道具の使用がぎこちない
・相手の話が理解できない、言いたいことを上手く言葉にできていない、読み書きが出来ない
交通事故により脳に外傷を受けた後、上記の症状に1つでも当てはまる方は、当事務所弁護士に、後遺障害のご相談をください。
高次脳機能障害と後遺障害等級
後遺障害1級1号 (別表第一) |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの |
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後遺障害2級1号 (別表第一) |
神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの |
後遺障害3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの |
後遺障害5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
後遺障害7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
後遺障害9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
頭部・顔面・頸部に残った交通事故による傷跡等の醜状障害は、上記、いずれかの後遺障害等級に認定されることになります。
高次脳機能障害は、別表第一の後遺障害1級又は2級、別表第二の後遺障害3級、5級、7級、9級に認定されることになります。ですが、後遺障害12級13号(胸部に頑固な神経症状を残すもの)や14級9号(局部に神経症状を残すもの)認定が留まってしまうケースもあります。
交通事故による高次脳機能障害の後遺障害等級は、上記のとおり、障害の程度、介護の要否や程度、労務への影響の程度などによって判断されますが、その具体的基準は明らかではありません。
もっとも、高次脳機能障害の後遺障害について、同様の等級を定めている労働災害による高次脳機能障害の後遺障害等級(後遺障害3級以下)の認定方法は明らかにされています。
これらの認定方法は、交通事故による高次脳機能障害の後遺障害についても参考になると言われていますので、以下、掲載しておきます。
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4つの能力の、喪失の程度を6段階で評価
以下の4つの能力が喪失しているか、どの程度(6段階評価)喪失したかによって判断されます。
4つの能力の内、1つでもA~Fに該当する場合、その評価に応じた等級が認定されることになります。ただし、2つ以上の能力について、喪失が認められることで、認定される等級が上がることがあります。例えば、4つの能力の1つがD評価の場合は後遺障害7級の認定ですが、2つ以上D評価がある、後遺障害5級が認定されます。 -
意思疎通能力
記銘・記憶力、認知力、言語力等。他人とコミュニケーションを適切に行えるか -
問題解決能力
理解力、判断力等。指示や要求に対し、正確に理解し適切な判断、業務遂行できるか -
作業負荷による持続力・持久力
意欲、集中の持続力・持久力等。一般的な就労時間に対処出来る能力があるか。 -
社会行動能力
協調性等。他人と円滑な共同作業、社会的行動ができるか。・A評価:わずかに喪失
後遺障害第14級。多少の困難はあるが概ね自力でできる
・B評価:多少喪失
後遺障害12級。困難はあるが概ね自力でできる
・C評価:相当程度喪失
後遺障害9級。困難はあるが多少の援助があればできる
・D評価:半分程度喪失
後遺障害7級。困難はあるがかなりの援助があればできる
・E評価:大部分喪失
後遺障害5級。困難が著しく大きい
・F評価:全部喪失
後遺障害3級。できない上記から分かるとおり、「全部喪失」(F評価)から「わずかに喪失」(A評価)の順に、重度な障害として、後遺障害の等級が高く、後遺障害慰謝料や逸失利益も高額になります。
具体的に、後遺障害慰謝料では、自賠責基準おいても
・1級1号 : 1600万円(弁護士基準では2700~3100万円)
・2級1号 : 1163万円(弁護士基準では2300~2700万円)
・3級3号 : 829万円(弁護士基準では1800~2200万円)
・5級2号 : 599万円(弁護士基準では1300~1500万円)
・7級4号 : 409万円(弁護士基準では900~1100万円)
・9級10号 : 245万円(弁護士基準では600~700万円)
といった違いが出ます。
高次脳機能障害と後遺障害認定のポイント
頭部・脳の外傷と画像所見 | 交通事故により頭部・脳に外傷を受けたことが、MRIやCTの画像から、明らかであること |
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外傷後の意識障害とその継続性 | 交通事故による頭部・脳への外傷後、一定時間又は一定期間、意識障害があったこと |
高次脳機能障害の症状と医学的意見 | 上記の高次脳機能障害の症状があらわれていることの医学的意見 |
家族や周囲の支え・影響 | 被害者本人に認識がなく、医師も見落としやすい |
▼ POINT 1. 頭部・脳の外傷と画像所見
高次脳機能障害が後遺障害として認められるためには、まずは、交通事故により頭部・脳に外傷を受けたこと(そのような医師の診断があること。診断名・傷病名等は、上記、「高次脳機能障害とは」を参照ください)、そして、それがMRIやCTの画像から確認できることが、まずは大切です。
▼ POINT 2. 外傷後の意識障害とその継続性
外傷後に意識障害が生じたこと、そしてそれが一定時間又は一定期間継続したことは、脳に損傷が生じたことを強く推認させるることから、この要件もとても大切です。
なお、びまん性軸索損傷の場合、交通事故の直後はMRIやCTの画像に現れないこともあり、そのような場合、意識障害のレベルで、傷病を推定、診断していくとされています。
意識障害の継続性について、具体的には、半昏睡状態~昏睡状態の場合はそれらが6時間以上継続したこと、健忘や軽度の意識障害の場合はそれらが1週間以上続いたことと言われています。
▼ POINT 3. 高次脳機能障害の症状と医学的意見
高次脳機能障害では、上記のとおり、記憶障害、注意障害、遂行機能障害や社会的行動障害といった様々な症状が表れます。
高次脳機能障害が後遺障害として認められるためには、それらの症状が医師による神経心理学的検査から確認できることや、医師の意見(「神経系統の障害に関する医学的意見」)も大切です。
後遺障害の認定は、医師の作成した書類を中心とした書類審査で行われます。
高次脳機能障害においても、後遺障害診断書、MRIやCTの画像、交通事故後症状固定までの診療録・カルテ、神経心理学的検査の結果のほか、神経系統の障害に関する医学的意見から判断されることから、これらの書類にどようのな記載がされているかは、とても重要なポイントになります。
→後遺障害認定の流れ・審査方法について、詳しくはこちら
▼ POINT 4. 家族や周囲の支え・影響
交通事故によって、半昏睡~昏睡状態といった状態が長く続く、あるいは高度な後遺障害に該当するような事例(後遺障害1級から3級程度)では、その意識障害は、医師ほか周囲の人からも明らかなため、見落とされることは少ないといえます。
けれど、軽度の意識障害(後遺障害等級では5級以下)の場合、見落とされやすいと言われています。
意識障害について、被害者本人が認識して医師等に申告することは難しいです。軽度な意識障害、脳機能障害を本人以外の他者が認識するためには、ある程度継続的に被害者本人の行動・経過等を観察・確認しなければなりません。また、交通事故以前の被害者本人の能力や性格との比較も必要になります。
けれど、医師が、被害者本人を継続的に観察することや交通事故以前と比較することはできません。そのため、高次脳機能障害は、見落とされやすい後遺障害であると言われているのです。
高次脳機能障害が見落とされないようにするためには、被害者の家族を中心とした周囲の支えが必要です。
例えば、上記ポイント2のとおり、高次脳機能障害が後遺障害として認められるためには、交通事故後、軽度の意識障害が1週間以上継続したことが大切ですが、これも医師には見落とされがちです。交通事故以前と様子が違う、意識障害が生じていることを具体的に医師に訴え、カルテ等に記載してもらうことが大切です。
また、医師は、限られた検査項目、わずかな診療時間内に表れた症状だけしか、認識できません。上記ポイント3の「神経系統の障害に関する医学的意見」を医師が作成する際にも、診療時間には表れなかった症状、日常の様子など、積極的に伝え、医学的意見に記載してもらうべきです。
さらに、高次脳機能障害の後遺障害認定にあたっては、「日常生活状況報告」を作成、提出することになります。
高次脳機能障害と後遺障害等級のポイント欄に記載したとおり、被害者ご本人の日常の様子について、意思疎通能力、問題解決能力、持続力・継続力、社会行動能力の4つ分類を意識して、具体的に記載することが重要であり、また、そのためには、日頃から、被害者ご本人を見守っていることが重要です。