交通事故に遭うと、身体のいろいろな部分に骨折が発生することがあります。骨折しても完治すれば良いですが、現実には完全には元に戻らず、後遺障害が残ってしまうことも多いです。
骨折の後遺障害には、いくつかのパターンがありますし、骨折した部位によっては逸失利益が問題になる場合などもあるので、注意が必要です。
目次
1.骨折の後遺障害
交通事故で骨折をすると、治療をしても、完全には元に戻らないことがあります。その場合、残った症状と程度に応じて、後遺障害が認定されます。
骨折が残った部位や症状の種類によって、認定される後遺障害の等級が異なります。
骨折する部位については、以下の3種類に分類することができます。
- せき柱及びその他の体幹骨の骨折
- 上肢の骨折
- 下肢の骨折
そして、それぞれにおいて、以下のような後遺障害が残る可能性があります。
- 欠損障害
- 機能障害
- 変形障害
- 短縮障害
- 骨折部の痛み
以下で、それぞれについて確認していきましょう。
2.せき柱及びその他の体幹骨の骨折
せき柱とは、人間の背骨のことです。せき柱が骨折した場合には、変形障害と運動障害、荷重障害という障害が発生する可能性があります。
体幹骨というのは、人間の体幹部分にあり、身体の基礎となっている骨です。「その他の体幹骨」とは、鎖骨、胸骨、肋骨、肩こう骨、骨盤骨のことです。
その他の体幹骨の骨折で認められる後遺障害は、変形障害のみです。
2-1.せき柱の骨折で認められる後遺障害
せき柱を骨折による後遺障害には、変形障害と運動障害、荷重障害があります。運動障害と荷重障害は、せき柱の機能にかかわる障害なので、機能障害に分類することができるでしょう。以下で、それぞれについて説明します。
せき柱の変形障害
変形障害とは、せき柱が圧迫骨折や破裂骨折などの損傷を受けたことにより、骨の形が変形してしまう後遺障害です。変形障害で認定される後遺障害の等級は、以下のとおりです。
- せき柱の変形障害で認められる後遺障害
6級5号 |
せき柱に著しい変形を残すもの |
8級相当 |
せき柱に中程度の変形を残すもの |
11級7号 |
せき柱に変形を残すもの |
運動障害
せき柱に圧迫骨折や破裂骨折などの損傷を受けると、治療後も可動域に制限が発生することなどがあります。このような場合を、運動障害と言います。
せき柱の運動障害が発生すると、以下のとおりの後遺障害が認定されます。
- せき柱の運動障害で認められる後遺障害
6級5号 |
せき柱に著しい運動障害を残すもの |
8級2号 |
せき柱に運動障害を残すもの |
荷重障害
せき柱骨折により、荷重障害が発生することがあります。荷重障害とは、せき柱がダメージを受けたことにより、せき柱が首や腰などを支えられなくなる症状です。身体を支えるために硬性の補装具が必要になった場合に認められます。認定される可能性がある後遺障害の等級は、以下の通りです。
- せき柱の荷重障害で認められる後遺障害
6級相当 |
原因が明らかに認められる場合であって、そのために頸部及び腰部の両方の保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするもの |
8級相当 |
原因が明らかに認められる場合であって、頸部または腰部のいずれかの保持に困難があり、常に硬性補装具を必要とするもの |
2-2.その他体幹骨の骨折で認められる後遺障害
せき柱以外の体幹骨の骨折が発生した場合には、変形障害のみが後遺障害として認められています。
その他体幹骨の後遺障害の内容と等級は、以下の通りです。
12級5号 |
鎖骨、胸骨、肋骨、肩こう骨又は骨盤骨に著しい変形を残すもの |
3.上肢の骨折
上肢とは、肩から手首にかけての腕の部分です。上肢には、上腕骨や橈骨、尺骨という骨がありますが、これらが折れた後、後遺障害が残ることがあります。
上肢の骨折の後遺障害には、欠損障害、機能障害、変形障害があります。
3-1.欠損障害
交通事故で腕の骨が酷い折れ方をすると、腕が物理的に失われることがあります。
このように、腕が物理的に失われた場合の後遺障害を、欠損障害と言います。
上肢の欠損障害の後遺障害は、どの部分で腕が失われたかにより、異なります。認定される可能性がある後遺障害の等級は、以下の通りです。
1級3号 |
両上肢をひじ関節以上で失ったもの |
2級3号 |
両上肢を手関節以上で失ったもの |
4級4号 |
1上肢をひじ関節以上で失ったもの |
5級4号 |
1上肢を手関節以上で失ったもの |
3-2.機能障害
骨折の影響により、治療をした後も関節などの機能が回復しないことがあります。たとえば、関節が動かなくなったり、可動域が制限されたりする場合です。このように、ケガの影響で関節の機能に発生する障害のことを、機能障害と言います。
可動域が大きく制限されると、より高い後遺障害が認められます。
上肢の機能障害によって認められる可能性がある後遺障害の等級は、以下のとおりです。
1級4号 |
両上肢の用を全廃したもの |
5級6号 |
1上肢の用を全廃したもの |
6級6号 |
1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
8級6号 |
1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級10号 |
1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 |
1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
3-3.変形障害
上肢の後遺障害にも、変形障害があります。上肢の変形障害で認められる後遺障害の等級は、以下の通りです。
7級9号 |
1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級8号 |
1上肢に偽関節を残すもの |
12級8号 |
長管骨に変形を残すもの |
偽関節とは、本来関節ではない部分が、関節のように異常な動きをするようになった症状です。骨折の治療をすると、こういった症状が発生することがあります。
上肢の長管骨は、上腕骨と橈骨、尺骨です。
4.下肢の骨折
下肢とは、股関節から足首にかけての脚の部分です。ここには、大腿骨、脛骨、腓骨という骨が通っており、交通事故で外傷を受けると骨折することがあります。
これらの骨が折れた後、治療をしても完治しない場合には、後遺障害が認定されます。
下肢の骨折の後遺障害には、欠損障害と機能障害、変形障害と短縮障害があるので、以下で順番に解説します。
4-1.欠損障害
欠損障害とは、骨折の影響により、脚が物理的に失われる場合に認められる後遺障害です。
脚のどこの部分から失われたかにより、認定される等級が異なります。
下肢の欠損障害で認められる後遺障害の等級は、以下の通りです。
1級5号 |
両下肢をひざ関節以上で失ったもの |
2級4号 |
両下肢を足関節以上で失ったもの |
4級5号 |
1下肢をひざ関節以上で失ったもの |
4級7号 |
両足をリスフラン関節以上で失ったもの |
5級5号 |
1下肢を足関節以上で失ったもの |
7級8号 |
1足をリスフラン関節以上で失ったもの |
リスフラン関節は、足の甲のあたりにある関節です。
4-2.機能障害
機能障害とは、骨折の影響により、関節が動かなくなったり間接の可動域が大きく制限されたりした場合に認められる後遺障害です。
下肢の機能障害で認定される可能性のある後遺障害の等級は、以下のとおりです。
1級6号 |
両下肢の用を全廃したもの |
5級7号 |
1下肢の用を全廃したもの |
6級7号 |
1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
8級7号 |
1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
10級11号 |
1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 |
1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
4-3.変形障害
変形障害とは、骨折後治療をしても、骨に変形が残ってしまった場合に認められる後遺障害です。上肢の後遺障害と同様、偽関節が発生した場合にも認定されます。
下肢の変形障害で認定される可能性のある後遺障害の等級は、以下の通りです。
7級10号 |
1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級9号 |
1下肢に偽関節を残すもの |
12級8号 |
長管骨に変形を残すもの |
下肢の長管骨は、大腿骨と脛骨、腓骨の3つです。
4-4.短縮障害
下肢の場合、短縮障害も後遺障害として認定されます。短縮障害とは、骨折の影響で、右足と左足の長さが異なる状態になってしまうことです。足の長さが一致しないと、歩いたり走ったりすることに大きな支障が発生するために、後遺障害として認定されます。
下肢の短縮障害で認定される等級は、短縮が発生した長さによって異なります。
8級5号 |
1下肢を5センチメートル以上短縮したもの |
10級8号 |
1下肢を3センチメートル以上短縮したもの |
13級8号 |
1下肢を1センチメートル以上短縮したもの |
5.骨折部の痛み(CRPS)
5-1.CRPSとは
骨折をすると、その後治療をしても、疼痛がおさまらないことがあります。皮膚の色が異常になったり、焼けるような強い痛みや痺れを感じたりします。
こういった場合、CRPSにより、後遺障害として認定されることがあります。
CRPS(複合性局所疼痛症候群)は疼痛性感覚異常のことで、神経損傷を伴わないRSDと、神経損傷を伴うカウザルギーに分類されます。
CRPSによる典型的な症状は、以下の4種類です。
- 激しい灼熱痛や疼痛
- 炎症などによって腫れ上がること
- 骨の萎縮、こわばり
- 皮膚の色の変化、皮膚温の低下や乾燥
認定される等級は、以下の通りです。
7級4号 |
神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級10号 |
神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
12級13号 |
局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 |
局部に神経症状を残すもの |
CRPSの中でも神経損傷を伴わないRSDの場合、証明に困難が伴いがちです。
自賠責保険の基準によると、RSDが認定されるためには、以下の症状が明らかに認められる必要があります。
- 関節拘縮
- 骨の萎縮
- 皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)
裁判例でも、上記のすべてが必要とするものが多いです(東京地裁平成24.3.27など)。
ただ、骨の萎縮がなくてもRSDを認定する裁判例も、中にはあります(神戸地裁平成22.12.7)。
5-2.CPRSと素因減額
骨折によってCPRS(特にRSD)を発症した場合、相手の保険会社から素因減額を主張されて、賠償金を減額されるケースがあります。
その理由は、骨折をしても、全ての人がRSDを発症するわけではないことや、受傷者の精神的な要因がRSD発症に影響していると考えられるからです。
しかし、そのようなことを言い出すとうつ病などでも同じことが言えますし、精神的要因とRSD発症に因果関係があるという根拠はありません。
もし、保険会社から上記のような主張をされても、鵜呑みにしないことが大切です。
以上のように、骨折をした場合にも、いろいろな箇所に、さまざまな後遺障害が発生することがあります。ケースに応じた適切な治療を受けて、確実に等級認定を受けましょう。