後遺障害
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部位別(頭部、脳)

交通事故で頭に外傷を受けると、脳を損傷してしまうことがあります。脳に後遺障害が残ると、完全に意識が回復しないこともありますし、手足に麻痺が残って介護が必要な状態になってしまうことなどもあり、非常に影響が大きいです。もし、脳に後遺障害が残ってしまったら、適切に後遺障害の認定を受けて、正当な賠償金の支払いを受ける必要があります。

脳の後遺障害の種類

脳の後遺障害は、大きく分けると器質性障害と非器質性障害に分類することができます。

器質性障害とは、脳の組織が損傷を受けて、変化が発生してしまった状態です。画像診断などにより、外見的に損傷を確認することができます。たとえば、脳の組織が部分的に欠けてしまったり、脳の神経回路が断絶されたりした場合です。

これに対し、非器質性障害とは、脳の組織自体には外見上変化がないけれども、異常な症状が発生するものです。

以下では、この器質性障害と非器質性障害に分けて、説明していきます。

脳の器質性障害

脳の器質性障害も、いくつかの種類に分類することができます。

大きく分けると、高次脳機能障害と遷延性意識障害、身体性の障害、てんかんです。

高次脳機能障害とは、脳の認知能力や感覚能力が低下したり失われたりする症状で、酷い場合には介護なしには生活ができなくなってしまいます。

高次脳機能障害については、こちらをご覧ください。

遷延性意識障害は、いわゆる植物状態のことです。本人に意識がないため、基本的に一生完全介護が必要となります。

身体性の障害とは、脳が損傷を受けることによって、身体の一部が麻痺する症状です。

てんかんは、慢性的にてんかん発作を繰り返すようになる後遺障害です。

以下で、順番に確認します。

遷延性意識障害

遷延性意識障害は、一般には植物状態として知られています。

遷延性意識障害として認められるのは、次の6つの状態が3ヶ月以上続いているケースです。

  • 自力で移動できない
  • 自力で摂食できない
  • 失禁が起こっている
  • 眼球は動くが、認識はできない
  • 簡単な指示には対応できても、意思疎通は不可能
  • 声を出すことがあっても、意味のある言葉を発することは不可能

交通事故の脳挫傷やびまん性軸索損傷により、発症します。

認定される後遺障害の等級は、以下の通りです。

  • 1級1号(要介護)神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

遷延性意識障害となった場合、自宅か施設のどちらで介護を受けるのかや、職業介護人を雇うのか家族で介護するのかなど、いろいろと検討しなければならない問題があります。

また、保険会社から「平均余命が短いので逸失利益を減額すべき」とか、「生活費控除をすべき」などの主張をされることも多く、被害者の家族が戸惑ってしまわれることも多いです。

被害者が遷延性意識障害になった場合には、弁護士のサポートを受ける必要性が高いと言えます。

身体性の障害

脳は、身体の各器官に対して命令を出して、それぞれを機能させています。

そこで、脳に損傷を受けると、こうした神経系統が破壊されて、身体(手足)が麻痺してしまうことがあります。

身体性の障害として認定される可能性がある後遺障害は、以下の通りです。

1級1号(要介護 別表1)

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの

2級1号(要介護 別表1)

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

3級3号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの

5級2号

神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

7級4号

神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外に労務に服することができないもの

9級10号

神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

12級13号

局部に頑固な神経症状を残すもの

麻痺による後遺障害は、麻痺の程度によって判断されます。

麻痺の程度には、高度の麻痺、中等度の麻痺、軽度の麻痺の3種類があります。

高度の麻痺

高度の麻痺は、障害のある腕や脚の運動能力や支持能力が完全あるいはほとんど失われて、基本的な動作がまったくできなくなった状態です。

中等度の麻痺

中程度の麻痺は、障害のある腕や脚の運動能力や支持能力が相当程度なくなり、基本動作がかなり制限を受ける常態です。軽量の物を持ち上げることができない場合や文字を書くのが困難なケースなどで認められます。

軽度の麻痺

軽度の麻痺は、障害のある部分の運動能力や支持能力が多少なくなり、細かい動作をしたり早く動かしたりすることが難しくなった状態です。日常生活はできても転倒しやすい場合や、文字を書くときに困難を伴う場合などに認められます。

 

1級1号(別表1)となるのは、以下のケースです。

  • 高度の四肢麻痺がある
  • 中等度の四肢麻痺があり、食事や入浴、用便、更衣等について常時介護を必要とする
  • 高度の片麻痺があり、食事や入浴、用便、更衣等について常時介護を必要とする

四肢麻痺とは、両腕と両足の麻痺のことで、片麻痺とは、右か左の片側の腕と脚の麻痺のことです。

 

2級1号(別表1)となるのは、以下のケースです。

  • 高度の片麻痺がある
  • 中等度の四肢麻痺があり、食事や入浴、用便、更衣等などについて随時介護が必要

3級3号に該当するのは、以下の通りです。

  • 中等度の四肢麻痺がある

5級2号に該当するのは、以下のケースです。

  • 軽度の四肢麻痺がある
  • 中等度の片麻痺がある
  • 高度の単麻痺がある

単麻痺とは、上肢か下肢のどれか1つのみに麻痺が残ったケースです。

 

7級4号が認められるケースは、以下の通りです。

  • 軽度の片麻痺がある
  • 中等度の単麻痺がある

9級10号に該当するのは、以下のケースです。

  • 軽度の単麻痺がある

12級13号が認められるのは、以下のケースです。

  • 麻痺があっても、運動障害はほとんど認められない場合や、広範囲にわたって感覚障害が発生しているケース

 

てんかん

てんかんの後遺障害は、発作の種類や頻度に応じて、等級が決定されます。

ただ、1ヶ月に2回以上てんかん発作が起こる場合、高次脳機能障害を伴うことが多いです。その場合、3級以上の認定を受けられる可能性もあるので、後遺障害の認定を受ける際に注意が必要です。

てんかんで認められる可能性のある後遺障害の等級は、以下の通りです。

5級2号

1か月に1回以上てんかん発作が発生し、その発作が「意識障害の有無を問わず転倒するもの」か「意識障害があり、状況に合わない行動をとるもの」である場合

7級4号

l  数ヶ月に1回、「意識障害の有無を問わず転倒する発作」か「意識障害があり、状況に合わない行動をとる発作」が発生する場合

l  上記以外の発作が1か月に1回以上発生する場合

9級10号

数か月に1回以上てんかん発作があるが、服薬によって発作がほとんど完全に抑制できる場合

12級13号

発作は起こらないが、脳波上、明白なてんかん性棘波が確認できる場合

 

「意識障害の有無を問わず転倒する発作」とは、意識を消失して、腕や脚がつっぱる強いけいれんが続く場合や、意識はあっても脱力して倒れてしまう発作などです。

「意識障害があり、状況に合わない行動をとる発作」は、意識が混濁して、周囲をうろつくなどの目的不明な行動をとる場合などです。

 

また、9級10号の発作には「意識障害の有無を問わず転倒する発作」や「意識障害があり、状況に合わない行動をとる発作」は含みません。こういった発作があると、7級4号以上の後遺障害が認められます。

 

非気質性障害とは

非器質性障害は、脳に外見上の異常は無いけれども発生する精神症状で、具体的にはうつ病やPTSDのことです。

交通事故での恐怖体験や不安感によってうつ病やPTSDになった場合、その程度に応じて後遺障害が認定されます。

脳の非器質性障害で、認定を受けられる後遺障害の等級と症状の内容は、以下の通りです。

 

9級10号

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの

12級相当

通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すもの

14級相当

通常の労務に服することができるが、非器質性精神障害のため、軽微な障害を残すもの

 

上記の基準では、多少の障害か軽微な障害かなど、基準が非常に曖昧です。

そこで、以下に記載する①精神症状と②能力に関する項目によって、判定します。

精神症状

  • 抑うつ状態
  • 不安
  • 意欲低下がある
  • 慢性的な幻覚・妄想
  • 記憶または知的能力の障害
  • その他の障害(衝動的な行動や不定愁訴など)

脳の非器質性障害で、後遺障害が認定されるには、上記のうち1つ以上に該当することが必要です。

能力に関する項目

  • 身辺日常生活ができること
  • 仕事・生活に積極的になり、関心を持つこと
  • 通勤・勤務時間を守ること
  • 普通に作業を継続できること
  • 他人との意思伝達ができること
  • 対人関係を維持し、協調性があること
  • 身辺の安全保持や危機の回避ができること
  • 困難・失敗への対応ができること

後遺障害が認定されるには、上記の項目のうち、1つ以上できないことがある必要があります。できない項目が多いと、その分高い等級の後遺障害が認定されます。

また、上記の能力が完全に失われているのか、しばしば周囲による指導・助言や援助が必要なのかによっても認定される等級が異なります。

 

以上のように、交通事故で脳に後遺障害が残るケースはさまざまですが、脳は人間の身体の中心になる重要な部位ですから、遷延性意識障害や四肢に麻痺が残る場合、てんかん発作が発生するケース、うつ病・PTSDのケースなど、それぞれ非常に重大な結果をもたらします。

 

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